ねぎぞうのお仕事
あてのない旅
その朝の目覚めは、悪いものではなかった。
いや、いつもの休日に比べればむしろさわやかな目覚めであった。
男はベッドから出ると、クシャクシャになった箱から最後の一本を取り出し
おもむろにコンロで火を着けた。
煙草の煙越しに差し込む初夏の強い朝日が目に染みる。
二、三度煙をくゆらせると火を揉み消し、男はドアの向こうへと消えた。
中からはさっきまでのゆったりとした空気を断ち切るかのように、
激しいシャワーの音が聞こえてきた。
部屋に戻った男はタオル一枚を纏い、沸き立った珈琲をすすりながら
コンビーフをほお張る。
テレビでは朝の情報番組が連休中の高速道路で
本州を縦断するという企画をやっていた。
「そっか、1000円か...」
男はしばらく見入っている。
ふと窓の外に目を遣りボソッと呟いた。
「行くか...」
男は辺りに散らばった服を無造作に身に纏い、ガレージへと降りて行った。
そこには男の愛車が男を待っていた。
男はシートに深く身体を沈めキーを回す。
低く小気味の良いエグゾーストノートが男を包み込む。
眼を閉じてしばらくそのリズムに身を任せると静かに愛車を滑り出させた。
男はあての無い旅へ出た
富士山麓、鴨が鳴く
久しぶりの休日!
澄み渡る青空!
暖かい日差し!
じっとしているのはもったいない
と、いうことで、今日は朝から出かけようと、いつもよりちょっと早く家を出た
この時期になると毎年のように行きつけている場所がある
そこは、冬の寒い、天気のいい日に行くようにしている
昨日の夜、天気予報で今日の天気は確認済みだ
そこは、家から約3時間とちょっと遠いのだけど
一年に一度は行きたい場所だ
その場所は、山梨県、山梨市にある。
山梨市というのに県庁所在地になれなかった、残念な市だ
まぁ栃木県栃木市もそうだし、今は市町村合併で統合されたが
群馬県群馬町っていうのもあったけど・・・
話が変な方向に外れてしまった・・・
話を元に戻して、
その残念な山梨市にある、とある温泉に行くのだ
でも毎年上位にランクインしている
私は毎年そこを訪れている
ただ、せっかくの休日、温泉に入るためだけに
往復6時間かけるのはもったいない!
せっかく山梨に行くのだから、富士山を拝んでこようと
朝八時半に本栖湖を目指して車を走らせた
本栖湖なら、通常なら関越から圏央道、中央道を使えば一時間半で行けるのだが
残念ながら今日は平日、
高い高速代を払う余裕はこの時期の私にはない
ということで、秩父~雁坂峠~甲府を抜けて、ひたすら下道で行くこと約4時間
結構な時間を費やした・・・が
甲府の方はまだ紅葉も残っていて、走っていて退屈することもなく
楽しみながらのドライブとなった
12:30 お昼を少し回った頃合いで
まずは手前の精進湖に立ち寄る
残念ながら、体感的には風もほとんどなかったのだが、
湖面は波立っていて、逆さ富士をみることは出来なかった
ちょっと雲が・・・
湖面には鴨?が群れなして泳いでいた
かなり人になれているようで、人がいる湖岸まで上がってきてのんきにひなたぼっこしてる
そして本栖湖へ移動
平日だというのに、あたりは人が結構いる
ほとんどが私と同じように、あわよくば逆さ富士をともくろんだアマチュアカメラマンみたいだ
本栖湖に着いたころには太陽の位置も、少し後ろ側に回り込み、
少しかかってた雲も晴れて、きれいな青空になってくれた
やはり逆さ富士にお目にかかるにはもっと朝の早い時間でないと・・・
ホントは紅葉と富士山のツーショットをおさめたかったけど、時すでに遅し・・・
14:00 気がつけばそんな時間だ
富士山も満喫したことだしそろそろお昼を食べるところを探しつつ、次の目的地へ移動する
↓ ↓ ↓ 次回へつづく・・・
富士の樹海で人生を見失う・・・
再び精進湖方面へと向かう
本栖湖畔にも、レストハウスなど、お店は何件かあったのだが
どこも、看板には「ほうとう」を掲げている
別に「ほうとう」は嫌いではない
いや、どちらかと言えば好きな食べ物の部類に入るのだけど
根っからの猫舌な私では、「ほうとう」を食べるのにあまりにも
時間をかけすぎてしまう
そう考えて、ほうとうはパスし
道すがら、何かコレだ!と思える店があること期待しつつ
車を走らせていた
ふと国道139号沿いの看板の「青木が原樹海」の文字が
視界に入り込んできた
「この辺が樹海なんだぁ」と考えていると
私の中に、ちょっとした好奇心が芽生えてきた
「道沿いから樹海に入れるんなら、ちょっと入ってみたいな・・・」
しばらく行くと、おあつらえ向きに路肩が広く、車が停められる場所があった
私は、考える間もなく、車を停め、道を渡って、ガードレールを乗り越えて
樹海に足を踏み入れていた
道から入れるだけあって、樹海の中には、車の音も響きわたっていて
これなら、中で迷うこともないだろうと、どんどんと奥へと進んでいった
中は、溶岩の上に、木々が生い茂り、苔蒸した溶岩があたり一面に広がっていた
何とも神秘的な雰囲気だ
倒れた木の上にまた木が新たに生えてきて、広く張り巡らされた樹の根は
溶岩を割り、土が少ない土地で、養分を懸命に吸っている
さらにその樹の根にも、苔がびっしりと取り付いていて、
ナウシカの腐海の様な雰囲気だ
人の手がほとんど入っていない樹と苔と、溶岩の空間にいると、
不思議と自分という人間がこのまま大自然の中に
ゆっくりと取り込まれいくような感覚に包まれていく
なんか、このまま自然と一体になってしまう、そんな感覚だ
今までの自分の日常や考えがとても小さいことに思えてくる
そう思いながら知らず知らず、私は樹海の奥へと誘われていく
道路から100mも奥に入ると、
ホントに自分がどっちを向いているのかわからなくなってくる
頼りの道路から聞こえるはずの車の音も、森の中で響き渡り、
どちらが道路かわからなくなってくる
このまま奥へ進むのはさすがに不安になったので、太陽の光を頼りに
元来たと思われる方向へ戻っていく
確かに、樹海は迷いやすい、道にも、自分の今までの人生にも・・・
↓ ↓ ↓ でも樹海の中には、ハイキングコースもありますが・・・
恋人たちの聖地でツキに見放される
樹海を後にし、時間はもうすぐ三時になろうとしている
思わず立ち寄った樹海で、時間を大幅にロスしてしまった
お昼もまだ食べていないが
ここでゆっくりとお昼ご飯を食べてしまうと、この日一番の目的を
達することが出来なくなってしまう
昼ご飯はあきらめて、先を急ぐことにする
精進湖を通過して、朝来た道を甲府方面へと戻る
きたときは結構時間が掛かったように思えた路も
帰りは小一時間で今回の最終目的地
「ほったらかし温泉」に到着
ここは笛吹川フルーツ公園のさらに山の上に位置していて
湯船からは甲府盆地をはさんで富士山が見えるのである
何々?
富士山が見える温泉なら他にもたくさんあるだろう?
た・し・か・に・・・
富士山が見えるだけの温泉ならば
さっき寄った富士五湖周辺にはいくらでもある
しか~し!
ここ「ほったらかし温泉」はそれだけじゃない
言ったでしょ
甲府盆地をはさんでと
そう、ここは甲府盆地の夜景と富士山が温泉から同時に楽しめるのだ
それも日が完全に沈む少し前
富士山にあたる夕日と暗くなり始めた町の灯りがともるわずかな時間
の最高の景色がそこにはある
さらにここ笛吹川フルーツ公園からの夜景は「新日本三大夜景」にも選出されている
フルーツ公園は地元では「恋人たちの聖地」とも呼ばれている
お昼も食べずに先を急いだのはこの為なのだ
まずはひとっ風呂
そっそく温泉へGO!
すでに日も傾き始め、富士山が夕焼けに浮かび上がっている
(お風呂の中からの撮影は禁止の為、温泉の様子はこちらからどうぞ)
あとはここでのんびりと町の灯りが点るのを待つだけだ
極楽、極楽
富士山を眺めながら極楽気分を味わっていると
近くにいた初老のおじさんに声をかけられ、話が弾む
なんでもそのおじさんも私と同じ埼玉からきているそうだ
が、そのおじさんは、夜景までは見ずにさっさと上がってしまう
もう帰るのかと聞いてみると
何でも今日、明日は秩父の夜祭りで、
埼玉へ抜ける国道140号線を中心とした市内主要道路が
19時~23時まで完全通行止めになってしまうらしい
・・・・ナナナナント
私もその道を通らないと家へは帰れない
時間は4時半過ぎ
今からだとギリギリだ
私もそそくさと風呂から上がり、
とりあえず夕日に染まる富士山をカメラに納め
あわてて帰路へとつく
最大の目的を達成することが出来ず肩を落としながらも
何とか時間までに秩父市内を抜ける
しかし、どこも交通規制の気配すら無い
まだ時間にはなっていないからだろうか、それにしても
車の量もそれほど多くない・・・
後でわかったのだが、確かに秩父夜祭りは12/2.3の二日間だが
交通規制があるのは3日の一日だけであった
あのおじさんが悪いのか、下調べの足りない私が悪いのか
それともツキがないのか・・・・・
帰り道、あまりにも私が滑稽に見えたのだろう
空からお月さんがほくそ笑んでいる風に見えた
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